2004.05.27
「町田」〜長編

午前5時。

まださすがに肌寒いこの時間に俺はグランドに立っている。

朝野球の練習試合があったからだ。

ウチのチームには珍しく時間通りにメンバーが揃った。

もちろん相手チームも揃っている。

俺 : 「試合ができる♪」

今年2度目の試合。

そしてこの試合は、俺にとって今年初登板の試合でもあった。

いつもの事ながら、前日は興奮して眠れなかった。

仕事が遅かったせいもあって、一睡もせずに試合を迎えた。

「整列!」

主審の掛け声で俺達は整列した。

俺はいつも、この整列のときに相手チームの「顔」を見て

見た目だけで、強そうかどうかを判断している。

いつもの様に左端から順に「顔」を見る。

だが、ある男のところで視線が止まった。

見たことある。

間違いなく「知っている顔」であることは確かなのだが、誰なのかがわからない。

だが、試合が始まって間もなく、俺はその男の正体に気付く。

クセのあるフォームで、投球練習をしている男。

間違いない。「町田」だ。

〜〜〜

 俺より2歳年上で、同じ中学校の先輩だった「町田」。

 7年前。

 俺は中学生活のほとんどを野球打ち込んだ。

 一般に言う「野球少年」だった。

 部活は楽しかった。

 監督にもチームメイトにも恵まれ楽しい野球生活を送ることができた。

 だが、一つだけ嫌な思い出がある。

 俺達が練習している所に現れては、「しごく」と言って無茶苦茶な練習を強要させた高校生がいた。
 
 「おい!ヤル気あんのか!?コラ!!」

 練習中いきなり怒鳴り声をあげ、俺達を怖がらせた高校生「町田」。

 しまいには練習試合にも顔を出し、エラーをした選手を罵倒する。

 「卒業した部活の先輩が練習を教えにきてくれる」という話はよくある。

 微笑ましい光景だ。
 
 だが「町田」は違う。

 野球部じゃない。

 陸上部だ。

 そんな顔しか知らない「町田」がなぜ毎日俺達の練習に来て

 俺達を「しごく」のかサッパリだった。

 後に聞いた話だが、「町田」は高校で友達ができず

 うっぷん晴らしに中学校の練習に来ていたらしい。

 いつも「町田」は楽しそうだった。

 実に楽しそうだった。

 俺達はブツブツ文句言いながらも、「町田」(先輩)の言うことを聞いて、練習に打ち込んだ。

 たいして面白くない「町田」の冗談にも、覚えたての「愛想笑い」でかわした。

 そして覚えたての「社交辞令」の
 
 「ありがとうございました!」の号令にとても満足そうだった。

 俺達の気も知らずに。

〜〜〜

今、俺の前にヤツがいる。

俺は燃えた。

この日4番に指名された俺はバッターボックスに入る前

チームメイトに「それ」を打ち明けた。

俺 : 「〜〜〜〜なヤツなんです。」

    「ブッ潰してきます!」

チームメイト : 「はは♪ヤッて来い!」

俺 : 「押忍ッ!」

二回裏ノーアウト・ランナー無し。

初球。

「町田」が投げたストレートは、俺のバットによって右中間に運ばれた。

三塁打。

ヘコむ「町田」。

俺 : 「(イエス!イエス!イエス!)」

俺は感情を押し殺し、心の中でガッツポーズを連発した。

町田 : 「・・・ブツブツ・・・いやぁ、失投だった・・ブツブツ・・・」

みんなに聞こえるようにブツブツと言い訳をする「町田」。

第2打席。

二塁打。

そして間髪入れず三盗。

内野ゴロの間にホームに突っ込みキャッチャーにタックル。

主審 : 「セーフ!」

この日の俺は燃えていた。

そして完全燃焼した。

次の回。

完全燃焼した俺は「High」になっていた。

と同時に「灰」になっていた。

8連続ファーボール。

大敗です。

ごめんなさい。

見事「テクノ」獲得。


※「テクノ」
シーズン終了時、一番多く獲得した人は「テクノカットにしなくてはならない」という恐ろしいペナルティー。



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